03.業務解説/相続・遺言


相続・遺言

1 相続


(1)はじめに


1 相続手続の流れ

相続開始(被相続人の死亡)
     ↓
遺言書の有無の確認
     ↓
廃除者・欠格者の調査 相続放棄・限定承認
(被相続人の死亡を知ったときから3ヶ月以内)
     ↓
相続人の確定・遺産の確認(財産目録の作成)
     ↓
遺産分割協議*(遺産分割協議書の作成)
↓    
所有権移転手続き(名義変更・換価処分)
     ↓
相続税の申告・納付/延納・物納の申請
(被相続人の死亡を知った日の翌日から10ヶ月以内)

*相続財産は、相続人全員の合意がなければ分割できません。
 最悪の場合は、裁判所(調停や訴訟)を通じた遺産分割の
 方法を選ぶことになってしまいます。

2 相続手続の種類
 
 ① 相続人調査      相続関係図の作成
 ② 相続財産調査     財産目録の作成
 ③ 遺産分割協議書作成
 ④ 各種名義変更     自動車、預貯金の名義変更の手伝い
 ⑤ 不動産名義変更手続  相続登記手続のサポート
              (登記手続は司法書士が対応)
 ⑥ 相続放棄申立手続   必要書類の準備、申立手続のサポート
   サポート       (申述書の作成は司法書士が対応)
 ⑦ 保険金の請求
 ⑧ 年金・健康保険の請求・切替
 ⑨ ローンの返済・承継

(2)相続人


・相続は、被相続人の死亡により開始します。相続人は、原則として被相続人の権利と義務
 を包括的に承継します。従って、相続人は、被相続人の債権のみならず債務も引き継ぐこ
 とになります。(債務超過や債務が多大な場合は、相続放棄又は限定承認の方法があります
 -後述)
・被相続人が死亡したときに生存している配偶者及び血族(法定血族である養父母・養子を
 含む)の一定の範囲の者が、法律上当然に相続人となり(法定相続人)、以下の各ケース
 が想定されます:

  ①配偶者のみ
  ②配偶者と子
  ③配偶者と直系尊属
  ④配偶者と兄弟姉妹
  ⑤子のみ
  ⑥直系尊属のみ
  ⑦兄弟姉妹のみ
  ⑧相続人不存在

(3)法定相続人の順位


被相続人の配偶者は、常に相続人となります。血族相続人があるときに、配偶者相続人は
 同順位の相続人となります。
血族相続人の順位は、以下のとおりです:
 ◇第1順位:被相続人の子(実子・養子)
  *代襲相続:被相続人が死亡する前に子が死亡している場合には、その子(被相続人の
         孫)が相続人となる。代襲者が被相続人の死亡前に死亡しているときは、
        その子(被相続人の曾孫)が相続人となり、以下同じ(再代襲相続)。但
        し、養子縁組前に出生した養子の子は代襲相続人とはならない。
  *胎児:被相続人が死亡したときに胎児であった者は、出生後に相続人となる。
 ◇第2順位:被相続人の直系尊属
   *被相続人の死亡時に子も代襲相続人も存在しないときは、直系尊属(養父母を含
    む)が相続人となる。
   *親等が異なる複数の者が存在するときは、被相続人に近い者が優先する(例えば、
    父母と祖父母の場合には、父母が優先)。
 ◇第3順位:被相続人の兄弟姉妹
   *被相続人の死亡時に子・代襲相続人も直系尊属も存在しないときは兄弟姉妹が相続
    人となる。   
   *代襲相続:被相続人が死亡する前に兄弟姉妹が死亡している場合には、その子(被
    相続人の甥・姪)が相続人となる。但し、再代襲相続はない。
   *父母の双方を同じくする兄弟姉妹と父母の一方のみを同じくする兄弟姉妹の相続分
    は異なる。

(4)相続人の廃除・欠格


相続人の廃除:被相続人は、推定相続人が被相続人を虐待したとき、被相続人に重大な侮辱を加えたとき及びその他の著しい非行があったときには、推定相続人を廃除してその相続権を奪うことができます。排除の対象となるのは、遺留分(後述)を有する法定相続人(配偶者・子・直系尊属)だけです。排除は、(i) 被相続人が生前において家庭裁判所に排除の申立をする、又は(ii) 被相続人が遺言で推定相続人を廃除する意思表示を為し、遺言執行者が被相続人の死亡後に家庭裁判所に排除の申立をすることにより行います。被相続人は遺言又は家庭裁判所への請求により、廃除を取り消すことができます。なお、親が廃除されても、その子は代襲相続人として相続を受けることができます。

相続人の欠格:被相続人の遺言書を偽造・変造・隠匿する等法定の欠格事由に該当する推定相続人は、相続人としての資格を失います。なお、親が欠格となっても、その子は代襲相続人として相続を受けることができます。また、相続人の欠格は法律上当然なものなので、遺言により欠格者を適格としても効力を生じません。

(5)相続分


相続人が複数いる場合の相続分は民法に定められています(法定相続分)。但し、被相続人が遺言によって相続分を指定したときは、遺留分(後述)を除いて、それが優先されます。配偶者相続人と上記の順位の血族相続人が共同で相続するときの法定相続分は、以下のとおりです:

第1順位(配偶者+子)    配偶者:2分の1 子:2分の1
第2順位(配偶者+直系尊属) 配偶者:3分の2 直系尊属:3分の1
第3順位(配偶者+兄弟姉妹) 配偶者:4分の3 兄弟姉妹:4分の1
      

(6)遺留分


遺言による指定相続分は、法定相続分に優先されますが、相続人(兄弟姉妹を除く)に最低限留保された一定割合を侵すことはできません。この割合を遺留分といいます。相続財産全体の遺留分率は以下のとおりです:

配偶者+子 :    相続財産全体の2分の1
配偶者+直系尊属:  相続財産全体の2分の1
配偶者+兄弟姉妹:  相続財産全体の2分の1(兄弟姉妹には遺留分なし)
子のみ:       相続財産全体の2分の1
兄弟姉妹のみ:   なし
直系尊属のみ:   相続財産全体の3分の1
配偶者のみ:    相続財産全体の2分の1

それぞれの相続人の遺留分率は「相続財産全体の遺留分率×各相続人の法定相続分」で計算します:
 *相続人:配偶者+子
       配偶者の遺留分=1/2×1/2=4分の1
       子の遺留分=1/2×1/2=4分の1
 *相続人:配偶者+直系尊属
       配偶者の遺留分=1/2×2/3=3分の1
       直系尊属の遺留分=1/2×1/3=6分の1

(7)相続分の特例

 
①特別受益
・特別受益とは、被相続人から遺贈や生前贈与(婚姻・養子縁組の持参金や生計の資本のた
 めの贈与)を受けることをいいます。
・共同相続人の中に特別受益を受けた者があるときに、それらの者に法定相続分に応じてさ
 らに遺産を相続させることは、他の共同相続人と比べて不公平になってしまいます。
・共同相続人の中に特別受益を受けた者がある場合には、被相続人が相続開始時において有
 した財産(遺贈も含む)に贈与の価額を加えたものを相続財産とみなし、それに法定相続分
 をかけて算出した価額から特別受益の価額を差し引いた金額をその者の相続分とします。
②寄与分
・共同相続人の中に被相続人の財産の維持・増加に特別の寄与をした者がいる場合には、共
 同相続人の協議により、相続開始時の財産価額からその者の寄与分として合意した額を控
 除したものを相続財産とみなし、本来の相続分にこの寄与分を加えたものがこの者の相続
 分とされます。

(8)遺産の分割・相続の限定承認・相続の放棄

 
・被相続人が遺言で禁止した場合を除いて、相続人は協議により遺産の分割をすることがで
 きます。協議が調わない場合には、各相続人は家庭裁判所に分割を請求することができま
 す。
・被相続人は遺言により分割の方法を指定し、又はそれを指定することを他人に委託するこ
 とができます。また、相続開始の時から5年以内の範囲で分割を禁止することができま
 す。
・相続人は、相続財産の限度において、被相続人の債務・遺贈を弁済すべきことを留保し
 て、相続を承認することができます(相続の限定承認)。
・相続人は相続を放棄することができます。
・限定承認及び放棄は、相続の開始があったことを知った日から3ヶ月以内に家庭裁判所に
 申述することにより行います。限定承認は、相続人全員が共同でしなければなりません。
 なお、相続の放棄をした場合には、初めから相続人ではなかったとみなされるため、代襲
 相続は行われません。
 

2 遺言

 

(1)遺言


・遺言は、遺言者の意思による財産の処分を、死後に認める制度です。
・満15歳以上であれば、遺言をすることが可能であり、未成年者であっても親権者の同意
 を要しません。
・遺言は、遺言者の死亡の時から効力を生じます。
・遺言は、書面によることが必要であり、遺言書は法律で規定された方式を満たすものでな
 ければなりません。
・遺言者は、方式に則って、遺言の一部又は全部を撤回することが可能です。
・遺言が可能な事項は法律に定められており、相続に関する主な事項は以下のとおりです:
 ①推定相続人の廃除及びその取消
 ②相続分の指定
 ③遺産分割の方法の指定・遺産分割の禁止
 ④遺言執行者の指定

(2)遺言の方式


法律により定められた遺言書の方式は、自筆証書遺言、秘密証書遺言及び公正証書遺言の3つです。

① 自筆証書遺言
・遺言者が自ら遺言の内容・日付を書、氏名を自署して押印しなければなりません。パソコ
 ン・ワープロで作成したものは不可です。
・遺言書の保管者・発見者は、遺言者の死亡を知った場合に速やかに家庭裁判所に遺言書を
 提出して、検認を請求しなければなりません。

② 秘密証書遺言
・遺言書は自筆である必要がありません。自筆で作成したもの、パソコン・ワープロで作成
 したもの、又は他人が代筆したものに遺言者が署名・押印して封筒に入れ、封印します。
 二人以上の証人と共に公証役場に行き、公証人の下で手続をします。自筆証書遺言と同様
 に、家庭裁判所の検認が必要です。

③ 公正証書遺言
・遺言者が二人以上の証人と共に公証役場に行き、公証人の面前で遺言の内容を口述し、公
 証人が公正証書にします。家庭裁判所の検認は不要です。

(3)遺言の執行



① 遺言執行者
・遺言執行者は、遺言者が死亡した後に、遺言の内容を実現します。
・遺言者は、遺言により遺言執行者を指定することができます。
・未成年者や破産者は遺言執行者となることができません。
・遺言において遺言執行者が指定されていないとき又は遺言執行者がいなくなったときに
 は、利害関係人は家庭裁判所にその選任を請求することができます。

② 遺言の執行
・遺言執行者は、速やかに相続財産の目録を作成して相続人に交付します。
・遺言執行者は、相続財産の管理等遺言の執行に必要な一切の行為をする権限を有し、義務
 を負っています。
・相続の具体的手続は以下のとおりです:
  ◇被相続人の戸籍謄本類の取得
   戸籍謄本、除籍謄本及び改製原戸籍謄本等被相続人の全ての戸籍を、出生から死亡ま
   で連続してつながるように取得します。
  ◇相続人全員の戸籍謄本類の取得 
  ◇被相続人の除かれた住民票(除票)の取得
  ◇相続関係の確定と相続関係説明図の作成
  ◇遺言の検認
  ◇確定した相続人全員による遺産分割協議と遺産分割協議書、特別受益証明書等の作成
  ◇不動産の所有権移転登記・預貯金の払戻・遺言による認知・推定相続人の廃除/取消